循環器内科(不整脈部門)
診療方針
不整脈外来では循環器疾患の中でも「心臓のリズム」異常、いわゆる「不整脈」と呼ばれる病態治療を専門とする他施設の一般循環器科にはない特色を持ち合わせた外来です。診断困難な不整脈の心電図診断をはじめ、不整脈によると考えられるあらゆる病態・症状に対処すべく、当院循環器内科・心臓血管外科と密接な連携をもちながら、診療を行っています。
不整脈疾患は、突然死に至る重症不整脈から生命には影響を及ぼさないが日常生活(QOL)に支障をきたすものまで様々に存在します。多様化する病態を特徴とする不整脈の治療の第一歩はその原因となる不整脈の確定診断となります。そのため不整脈発作時あるいは動悸や胸部不快感などの症状出現時に記録された心電図が非常に重要です。逆に発作や症状がない時の心電図のみでは不整脈の確定診断が不可能ということになります。これを捉えるために運動負荷心電図や長時間心電図(24時間ホルター心電図と呼ばれるもの)、さらに発作あるいは症状出現時のみ記録可能であるイベントレコーダー記録を行い、診断をつけます。
原因不明の失神に対しても当外来で鑑別診断を行っています。失神の原因の一つに自律神経調節異常に伴う血圧低下や失神の可能性(迷走神経媒介性失神)があり、これらを診断する目的でヘッドアップチルト検査も行う事が可能です。これら諸検査を行っても原因となる不整脈心電図が得られない場合はループレコーダの植え込みを行います。本デバイスはUSBメモリスティック程度の大きさで前胸部皮膚の下に植込みます (下図)。最長6年間の持続的な心電図モニタリングができますので、失神がいつ起きても、その際の心電図を調べることで心臓の病気に由来するものなのかを判定することが可能です。



原因となる不整脈の心電図診断がつけば治療となります。治療はそれぞれの不整脈病態に合わせて薬物内服治療ならびに不整脈外来の特色であるカテーテル心筋焼灼術(アブレーション)による根治治療、失神などを起こす徐脈性不整脈に対してはペースメーカー植え込み術を行っています。
I) 薬物治療
種々の抗不整脈薬とよばれる内服薬治療が主体です。抗不整脈薬は他の一般薬と異なり、心臓をはじめとする身体への影響が懸念されるため、豊富な知識と経験が必要となります。当外来では様々な大規模試験の結果をふまえ、10年以上不整脈診療に携わった医師による外来診療を通じ、患者様へ安心して頂ける薬物内服治療を行っています。
II) 頻脈性不整脈に対するカテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション治療)
1990年はじめに本邦で本治療が取り入れられてからは今日では様々な頻脈性不整脈に対して適応が広まっています。従来の上室性頻拍・心房粗動・心房頻拍に加え、心室頻拍・心房細動に対しても最新のマッピングシステム(3次元マッピングシステム:CARTO/Ensiteシステム)を使用し、積極的に行っています。治療時間は対象となる不整脈により変動します(表;カテーテル治療の概要参照)。
心房性頻脈性不整脈 (心房粗動; 図中 AFL)に対するカテーテル治療

カテーテル治療による心房性頻脈性不整脈(図中AFL; 興奮頻度250/分)の停止。
停止後は正常の脈拍数(60回/分)に戻っている。

心房性頻脈性不整脈(AFL)持続中の3次元マッピングシステムによる解析。
本システムを用いることで、頻脈性不整脈の心臓内興奮伝播様式を詳細に把握することが可能となる。
本頻拍は右心房内に共通路を持つ上下2つの旋回路を有する興奮回路 (図中矢印)と診断した。
共通路を横切るように治療(心筋焼灼:図中赤丸箇所)を行い頻拍停止に成功した。
心房細動に対するカテーテル心筋焼灼術
循環器領域において心房細動は生活習慣病の1つとも考えられるほど、加齢とともに生じやすい不整脈と言われています。本頻脈性不整脈に伴う症状は様々で心房細動自体は死に至る病気ではありません。しかし適切な治療が行われていない場合、「脳卒中」や「心不全」を招くことがあり、注意が必要です。当不整脈外来では患者さんの生活の質(QOL)の向上を目指すことを主体に本不整脈に対するカテーテルアブレーションも積極的に行っています。
- 心房細動発作がおこると;
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心房といわれる心臓の上の部屋が小刻みに震え、十分に機能しなくなります。動悸(どきどき感)がしたりめまい・脱力感・胸の不快感を自覚することがありますが、自覚症状のみられない方も少なくありません。
心房機能が十分でなくなると血液を心房の下に存在する心室に血液を送るポンプの力が低下し、血液が心房の中でよどんでしまいます。そのため血液の塊 (血栓)ができやすくなり、この血栓が脳に運ばれると「脳梗塞」を引き起こします。
心房細動が頻回に起こる、持続する状態が長期間になると心房ポンプ機能が破綻してしまい、心臓全体としてのポンプ機能が低下し、「心不全」を引き起こします。


- 正常時;
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心房から心室への血液流入が正常に行われる (黄色矢印)。
心電図上は正常心房収縮機能を示す波形が見られる (P)。
- 心房細動時;
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心房収縮機能が十分でないため、心室への血液流入が正常に行われず心房内に停滞 (黄色矢印)、血液のよどみが生じる。
心電図上は心房収縮機能が見られない波形となる (F)。
- 心房細動あり vs. 心房細動なし での有害事象発症の比較
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心房細動を有する場合、脳梗塞発症率は有さない場合と比較して約5.6倍高い (左図)
心房細動を有する場合、心房機能はほぼ皆無となり心臓機能 (全身に血液を循環させるポンプ機能)は60-70%前後になる。そのため心臓機能が破綻する心不全に陥りやすくなる (右図)


3次元マッピングシステムを使用した心房細動アブレーション
透視下(図中A: 数本のカテーテルが左心房内に挿入されている)とは異なり、心臓の解剖ならびに治療用(アブレーション)カテーテルの3次元的位置が詳細に把握できることが本マッピングシステム(図中B)の長所である (黄色矢印; 治療用カテーテル)。

心房細動発症源は大半が左心房内肺静脈に存在する (全心房細動症例の約 90%)。
アブレーションでは肺静脈内細動起源からの電気興奮が心房方向へ及ばないよう 肺静脈入口周囲を取り囲むように治療を行う (図 ;左心房を後ろ側よりみたもの)。

冷凍焼灼用バルーンデバイスを使用した心房細動アブレーション
当院ではカテーテル治療の他バルーンデバイスを用いたアブレーション治療も行っています。カテーテルという先端直径が数ミリの治療に比べてバルーンを用いる事で一回の治療で行える範囲が広いため、手技時間の大幅な短縮につながります。


- バルーンデバイスを用いた心房細動治療
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心房内肺静脈入口部周囲をバルーンカテーテルを用いて閉塞させる(図中黄色矢印)。この際バルーン表面は-80℃まで冷凍させられ接触した心筋が冷凍凝固壊死に陥る事で心房-肺静脈間の興奮伝導を途絶させる。


カテーテル治療は一カ所(左図黄色点)づつの治療に対してバルーンデバイス治療はバルーン接触面(右図白楕円)での治療となり手技時間を大幅に減らすことができる。両者ともに細動起源(図内青箇所)からの興奮伝導を途絶する形となる。(白矢印が治療箇所を横切り外側へ伝わらない)
カテーテル治療か、バルーンデバイス治療かの選択は患者様の左心房を含めた解剖所見を見極めたうえでどちらの治療がより好ましい成績に結び付ける事ができるか慎重に検討を行います。
パルスフィールドシステムを用いた心房細動アブレーション (当科でも採用しています)
従来の心房細動の治療法として、主に高周波電流を使用する方法 (高周波カテーテル治療)、冷却剤を使用する方法 (冷凍焼灼バルーン治療)があります。これらの既存の治療法は、高温や低温を用いて心房細動に関連する心臓の組織を焼灼するものです。
パルスフィールドアブレーションでは、カテーテル電極にパルス電圧をかけることで電極周囲に電場(パルスフィールド)を形成し、ターゲットとする心筋細胞のみを組織選択的にアブレーションすることができます。熱に依存しない技術により、食道や横隔神経、肺静脈といった周辺組織に関する合併症の発生リスクを低減することが期待されています。
2024年12月より国内主要施設にて同治療が開始され、2025年以降は各施設において施行可能となる予定です。

心房細動 | 上室性頻拍 心房粗動 |
心室頻拍 | |
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手技時間 | 3(~4)時間 | 1.5~2 時間 | 2~4 時間 |
入院期間 | 3泊4日 | 2泊3日 | 3泊4日 |
成功率 | 75~90% | ≧95~100% | 80~100% |
合併症(偶発症) | まれ (0.7~1%) |
きわめてまれ (<0.5%) |
きわめてまれ (<0.5%) |
III) 徐脈性不整脈に対するペースメーカー治療
意識消失や失神発作、めまいなどの原因となる徐脈性不整脈に対してはペースメーカー治療が有効です。手術時間は 1~1.5 時間弱と短時間でペースメーカー植え込みのみの手術であれば、術後の安静も術翌日からは通常と変わりなく動けるようになります。入院から退院までのおよその期間は 7~10 日前後です。

ペースメーカー本体・心内リード

ペースメーカ ー 模式図

術後の総部 (4-5cm)
診療体制
2020 年より当院で心房細動に対するカテーテルアブレーション治療を開始して以降、多くの近隣施設様・クリニック様より御紹介を頂くようになりました。また患者様御自身でも外来受診を頂くようになり、今後さらなる外来診療・カテーテル治療適応患者様が増えていく事が予想されます。高齢化社会に伴い近年増加傾向にある心房細動患者に対するカテーテル治療を中心に診療を行っています。
現在当院における不整脈外来としての窓口は金曜のみですが循環器内科外来への受診による診療も可能です。少しでも不整脈発作を思わせるような症状 (動悸・ふらつき・めまい・胸部違和感等)を自覚された方・症状の見られない方でも他施設で不整脈の指摘を受け、専門医師への受診を勧められましたら是非当外来への受診を御検討頂けると幸いです。
- 外来担当医師
- 江里 正弘 (えさと まさひろ) 循環器内科不整脈部門部長

診療実績

担当医のご紹介

- 部長
- 江里 正弘(エサト マサヒロ)
役職 | 部長 |
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資格・専門医 | 日本内科学会 総合内科専門医 日本循環器学会 専門医 日本不整脈心電学会 不整脈専門医 日本不整脈心電学会 植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了証取得 医学博士 臨床研修指導医 |
所属学会 | 日本内科学会 日本循環器学会 日本心電図学会 日本不整脈心電学会 |
履歴 (大学卒業後) ;
期間 | 病院名及び診療科名 |
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1992年3月 | 東京慈恵会医科大学卒業 |
1992年4~月2005年3月 | 山口大学 大学院医学系研究科 器官病態内科学 (1999年10月-2000年9月;東京都立広尾病院循環器科勤務) |
2005年 4月~2008年12月 | ドイツ・ライプチヒ ライプチヒハートセンター不整脈部門 |
2009年1月~2010年 10月 | 康生会武田病院 (京都府) 不整脈治療センター |
2010年11月~2019年11月 | 医仁会武田総合病院 (京都府) 不整脈科 |
2020年1月~ | 大垣徳洲会病院 循環器内科不整脈部門 |